要するに死亡率99%の短篇作品集です。



『1ペニーで酔っ払い2ペニーで死ぬ』

 そんな謳い文句の通り、廉価に死んでいく安手の人間が巣喰う貧困街──イーストエンド。
 無骨な男と薹の立った女が人口のほとんどを占め、今日も今日とて路地裏ではバムが生ごみを巡って殺し合い、ジンに溺れたスラグが惨めに死んでいく。

「あ……、雨だ……」

 金も教養も、傘すら持たないぼくが此処を抜け出すことは一生ないだろう。況して、それを望んでくれる人間なんて。
 この闇夜にぼくが塗り潰されてしまうように、このみっともない街はキングダムの栄華に霞んでいく。ぼく等がいくら困窮に喘いでも、ザ・パークの人間たちは気が付かない。

「やあ、坊や」

 その声はちょうど街灯の下、石畳を汚す肉の傍らに立つ闇から聴こえた。

「こんな夜更けに御散歩かい?」

 緋色の闇が微笑むと、何だか急に冷え込んだ気がした。

「母さんに、会いたくなって」
「会えたかい?」
「ううん。仕事、してたから……」
「それは残念だったねえ」

 身震いするほど背筋が凍てつくのは雨の所為じゃなくて。
 それはきっと、ぼくの目の前に立つ暗く冷たいものの所為。

「あんたは…………闇?」
「坊やがそう思うならば──」

 この街に不釣り合いな美貌を纏った闇は、言葉を半ばに口元を歪めた。

「闇に魅入られてみるかい?」
「……え?」

 降り頻る雨の中、ぼくと目線の高さを合わせた闇は全く濡れていなかった。
 妖しく微笑む闇が再び口を開く。雨粒は決して闇を濡らさない。

「人間を肉塊にする狂喜を坊やに授けよう」

 雨は止んでいない、雨粒が地面に堕ちる音が聴こえるから。なのに、ぼくの身体は濡れていない。清らかな水が、ぼくを避けて地面を目指しているんだ。

「さあ、穢れに身体を濡らしてごらん。我々は穢れにしか染まらないから」

 翌朝、『娼婦の惨殺死体見つかる!』という言葉で飾られた紙面が食卓の上に置いてあった。台所に立つ母さんは、ぼくに背を向けたまま忙しなく朝食の用意をしている。

「殺人事件ですって。外に出る時は気を付けなさいね」
「──母さんも気を付けた方がいいよ、背後に……ね?」

闇に魅入られたぼくは
Jack the Ripper

FIN.


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