要するに死亡率99%の短篇作品集です。



 視界に捉えた彼は憮然たる面持ちの私とは対照的で、どっぷりと優越感に浸っているような、しかし不機嫌な表情を浮かべていた。

「なあに? それ」

 私が思わず落としてしまったボストンバッグを指差しながら、彼は甘ったるい猫撫で声でそう尋ねた。不機嫌な表情を瞬時に解き、あまつさえ微笑を浮かべようと、彼の瞳は決して嘘を吐かない。
 冷ややかで射るような目付きに捉えられたが最後。蛇に睨まれた蛙の如く、抗う前に諦めがやって来る。

「……私、出て行く。別れたいの」

 わかりきった答えが私の口から紡がれるのを待って、理解を示すように頷いて、今一度こちらに笑顔を向けて、そして彼は私を殴った。平手打ちで一発。更に、その弾みで膝を折って座った私の毛髪をむんずと掴み上げてもう一発。
 ジンジンと痛む左の頬を押さえながら、涙で歪む視界の中で彼を捜す。

「誰が、別れるって?」
「うっ!?」

 彼が蹴り下ろした脚は私の鳩尾(みぞおち)にクリティカルヒット。意識を保ったまま心肺機能が止まったかのような衝撃の後、私は腹部を抱えて踞った。
 手の代わりにと私の肩に添えられた足が猫背になっている私の上体を起こすものの、背筋を伸ばされると鳩尾の痛みが増して呼吸が苦しくなる。咄嗟に彼の足を振りほどいた私は、再度身を丸めて腹部を抱えた。

「俺に逆らう気か? ふざけんな! お前はずっと此処にいりゃ良いんだよ!」

 何度か踏み付けられるように蹴られた後、その足で突き飛ばされた私に抵抗する気概はすでになく、私はただ、勢いに任せて床に身を預けた。
 仰向けに転がる私へ馬乗りになった彼は、まるで手際の良い強姦魔のように私のジーンズと下着を脱がせた。そうして、どのタイミングで欲情したのかは知れないけれど、すでに反り勃っていたアレが私の陰部に宛がわれる。

「お前は俺のだろ? そうだよな?」
「痛……っ」

 潤っていない膣が破瓜に似た痛みを訴えたけれど、無力な私は自分の身さえ守れやしない。だからこの為体(ていたらく)で、だから私は“力”に頼るほか自衛の手段を持っていない。

「は……?」

 そっと自身の首に手を添えた彼は、手に着いた液体を見て明らかに困惑していた。しかし、正直なところ困惑しているのはこちらも同じ。
 ボストンバッグから包丁を取り出すまでは良かったが、一撃必殺に至らなかったことで私は窮地に立たされた。事はドラマや映画のように上手く運ばない。現実に勧善懲悪なんてない。きっと私は殺される。彼に殺される。殺される。

 ──殺られる前に殺らなきゃ。

「………」
「……はあ、はあ、はあ」

5×9
この先は地獄か極楽か

FIN.


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