要するに死亡率99%の短篇作品集です。



「仕事もそうだけれど、貴方というひとは恋愛もそつなく熟すのね」

 つい先刻まで可愛らしく鳴いていた彼女は何処へやら、今はただ、蒼白の煙を燻らせながら冷徹に言い放つ彼女が其処に在るだけであった。そんな皮肉を投げ付けられた当人は果たして、僅かばかりにも心を痛めるどころか、さらに冷たい眼差しを彼女に向けて嗤い、こう言い放つ。

「何を仰る。これも仕事の内ですよ」

 白昼と同様の高慢を装い、すっかり上司に戻っていた彼女は微かに顔を強張らせた。彼女が私事だと思っていた関係は彼にとっては仕事の一環で、年増の女上司を抱いて御機嫌を取り、あわよくば出世の足掛かりにしようと企んでいたのである。

 ──社内で将来有望と評判の、若くて美しい男に抱かれて年甲斐もなく有頂天になっていた。情欲を掻き立てる瞳も、熱を帯びた唇も、愛撫する指も、愛を囁く声までも、彼のすべてがエゴイズムな勘定の上に成り立っていたなんて。
 突如として突き付けられた真意にすっかり参った様子で、煙草の灰がシーツを焦がしていることにさえ気が付いていないらしい。呆然とする彼女に灰皿を差し出すと、さらに追い撃ちを掛けるように男が口を開く。

「嗚呼、そうそう。貴女が推薦してくださった御蔭で昇格および昇給が敵いましたこと、家内も喜んでおりました」

 聞き間違いかと思ったが、初めて見る喜色満面の様相にそうでないことを知る。彼は確かに「家内」と、そう言った。

「貴方、結婚しているの?」
「ええ。結婚しているんです、僕。貴女とは正反対の、可愛らしい年下の女と」

 ついカッとなって。まさしくその通りで、彼女が我に返った時にはもう男は事切れていた。
 手には血の付いた灰皿、辺りに散乱する煙草の欠片、床には微動だにしない男、どくどくと流血する陥没した頭、未だ交わりの余韻が残る湿気とキャスターの甘い煙が漂う室内。ふと見遣った鏡に映るモノは髪も化粧も乱れた熟れた女で、まるで童話に登場する鬼婆に相当する醜悪さ。こんな醜女が若くて美しい男に愛されることなど、誰がどうして想像できよう。

「セックスもそうだけれど、貴方というひとは素っ気なく逝ってしまうのね」

 夢想に酔い痴れていた愚かしい女は、愛妻が選んだであろう彼のネクタイを手に取って輪を作った。


熟れて腐って落日果実 青い実と落つ

FIN.


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