要するに死亡率99%の短篇作品集です。



 幼い時分から、私はヒトの顔色を窺うことに長けた人間でした。
 特にそうしようと努力せずとも、手に取るようにヒトの感情というものがよくわかったのです。しかし、ヒトは年を重ねるごとに複雑で醜悪になっていく生き物です。私は私の周囲にいるすべてのヒトの感情を汲み取って、彼等の望む最良の人間を演じて生きてきました。
 俗に言う八方美人でありながら、そうと気付かれることはありませんでした。私の演技は完璧だったのです。
 世に氾濫する八方美人と評される人々は、私に言わせれば人間味の溢れる臆病者。綻びがあるからこそ正体を知られてしまったのでしょうが、綻びがあるからこそ人間味に溢れているのです。ただし、八方美人は決して悟られてはいけません。何故ならば、それまでは善良な人間と評されていようとも、悟られた途端、誰にでも媚び諂うつまらぬ人間だと見做されてしまうからです。
 その点、私は完璧に演じていましたから悟られることはありませんでした。誰にでも分け隔てなく接し、人当たりの良い善良な人間。これが私の評価で、もちろんそのように評されるように演じて生きてきました。

「まるで玩具のようだね」

 貴方にそう言われた瞬間、私は今まで築いてきた足場がガラガラと音を立てて崩れていくのを感じました。
 何せ表面だけを完璧に取り繕った紛いモノ、中身なんて皆無に等しく、足場は不安定である他なかったのです。
 けれども、否、ゆえに。私と外界とを隔てていた仮面を暴かれては致し方ありません、貴方にだけ私の正体をお見せ致しましょう。この醜く肥え太った欺瞞の塊を。
 堰を切ったように、私はこれまで犯してきた罪を彼に告白しました。種を見破られた奇術師が潔く認めることと同様に、私という詐欺師もまた、核心を突かれたら素直に告白しようと心に決めていたのです。

「僕は君のことがよくわかるよ、君は誰よりも臆病で誰よりも傲慢だ」

 まるで舞台俳優にでもなったかのような両腕を広げて訴えかけるジェスチャー。これに次ぐ「だからこそ君に選ばせてあげよう、タクシーかパトカーか」という二者択一。
 私が饒舌に語る様を見て観念したと思ったのでしょう。これだから日本人は情に厚いとおだてられるのです。言い換えればそう、騙し易い。

「え……?」

 渇いた発砲音と漂う硝煙の匂い。
 膝から崩れ落ちる貴方に哀悼の意を示して、この詐欺師(わたし)が遂に真実を教えて差し上げましょう。

「私は私の正体を見抜いた方を欺きません。いいえ、死んでいただくのですから厳密には欺けません。だって、詐欺師が手の内を知られたら商売上がったりではありませんか。だからね、刑事さん。私は私の正体を見抜いた方を殺すこともまた、心に決めていたのですよ。……なんて、もう聞いていらっしゃいませんか」


詐り欺く道は死体の山

FIN.


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