要するに死亡率99%の短篇作品集です。


 此処を訪れる以前の俺は、来る日も来る日も安酒を掻っ喰らいながら自分の居場所は此処じゃないと嘯いていた。何故なら、俺はジョン・ロックフェラーのようなアメリカン・ドリームの体現者になるんだと心のどこかでまだ信じていたからだ。

「帰る? 帰るだって? アンクル・サム、君が向こうに戻らない約束で僕は入国を許したんだ。何を今更……まさか此処のこと──」
「オーライ、わかってる、わかってるよ。心配するな、すぐに戻るし此処のことは誰にも言わない。沈黙は金ってヤツさ。何より俺は口と義理の堅い男だ、信じてくれ」

 ──というのは方便で。
 マネーメイキングにおいては雄弁が金に成り得ることもある。殊、この非現実的な体験に関しては万の言葉を用いて声高らかに語らなければ。
 神がいくら言葉を分割しようとも、言葉がある限りヒトの傲慢に果てはない。

「そんな目で見るなよ、いくら俺でも傷付くぜ? そんなにこの俺が信用ならないか? 俺がお前を騙したことがあったか?」

 如何にも善良で純朴な風を装って、俺は露骨に猜疑する少年を詰った。徐々に猜疑を恥じていく彼を見ていると、自身の出来過ぎた演技に笑いが込み上げて仕方がない。
 そういえば舞台俳優を志したこともあったが、易々とスターになれるわけもなく。努力嫌いな俺はいつも素質のみの勝負で、努力を強いられる段階へ差し掛かる度に夢を投げ出していた。
 だからこそ、このミリオンダラー・チャンスを逃したりはしない。逃して堪るものか。

「此処は楽しいが永遠の少年が暮らす国だ、酒や煙草──いわゆる大人の楽しみがない。そして大人の俺はそれがないと生きられない。ちょっとしたショッピングさ、すぐ戻るよ」

 一瞬。ほんの一瞬の出来事だった。
 スウィーニー・トッドよろしく見事な刃捌きで。俺の視界いっぱいに広がった鮮やかな赤は、眼前の少年をも染めた。

「ホワイト・トラッシュ、あんたの企みなんて疾うに知れていたよ。それでもあんたが此処を出ると言わない限りは生かしておこうと思ってた、僕等の遊び相手としてね。だけど、今はもうあんたを生かしておく理由がない」

 ──そうか、彼の衣装が緑色なのはこのためか。
 そんなくだらないことを考えつつ、俺は膝を地面に打ち付けて彼を見上げた。尊大な態度は相変わらずで、両手を腰に添えて仁王立ち。

「此処はネバーランド。わかるかい? ロストボーイたちの楽園なのさ。だからこそ、そう、此処を脅かす者を僕は容赦しない」

 フォックスバットよりも速く飛んだ空を仰いで、俺はシンナーによって見せられた夢が醒めていくのを感じた。
 最期に聞いたのは夢か現か、永遠の少年が鰐の餌食を嘲る声。

「此処では大人が間引かれる、僕が其方で間引かれたように。ね?」

THINNER
I moved to never-never.

FIN.


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