要するに死亡率99%の短篇作品集です。



『私が病気であろうことは私自身、以前より薄々気が付いておりました。』

 何故ならば、睡魔に襲われながらも中々眠りに就けなかったり、突然に幾つかの肺胞が潰れたかの如く呼吸が儘ならなくなったり等の症状があったからです。殊(こと)不眠に関しては、日常に悪影響を及ぼす汎用性がございました。これ故に食欲が減退し、次いで免疫力が低下し、風邪などの詰まらない罹患。徐々に床の上で過ごす日が多くなり、一向に快方へ向かわない私を厭わしく感じなさった御継母様は、ただぽつりと「死ねば良いのに」と頑なな蔑視を向けつつ呟かれました。

『私という人間の価値は、生より死によって見出だされるのやもしれません。何しろ、私が死ねば都合の良い人間が大勢いるのです。』

 御継母様は後妻です。いたく美しい方ではございますが、旧家の御出身で気位が高くいらっしゃいました。また、男子を出産されてからは嫡男である私をひどく疎ましく感じられるようになり、私への風当たりも強くなりました。
 ちなみに、実の母は存命です。私が幼い頃に発狂し、以来、御実家で療養されていらっしゃるそうです。故に父は再婚されました。私も実母同様、発狂すると思われたのでしょう。

『私をこの世に現してくださった両親には感謝しております。しかし、少なくとも、この家に生まれるべきではなかったように思います。』

 本日、私の病気が判明いたしました。
 病院へは一人で行きました。御継母様が「いつまでも怠けられていては困るわ。あたくしの愛息に悪影響を及ぼす前にとっとと病院にでも行ってらっしゃいな」と仰ったからです。おまけに何故か頬を殴たれました。理由はわかりません。
 そして私は病院へ行き、病気であると診断されたのです。

『やっと明確な解答を得ることができました。私はやはり、生きていてはならぬ人間でした。』

 どの部位が不眠に作用するのか存ぜぬものでしたから、過呼吸に焦点を当てた私は、気管とか肺とかいう呼吸器官の調子が悪いのではないかと推しておりました。
 しかし、所詮は素人の浅見。御医者様の診断は私の見解とは異なりながらも、予想通りのものでした。つまりはそう、私の異常は精神に在ったのです。

『生来、私は私を“普通の人間”と思っておりました。ところが、御医者様曰く“普通の人間”は己が普通か否かを考えないのだそうです。当然です。ただ生きているだけで普通なのですから。』

 家に帰って直ぐ、ありったけの睡眠薬を飲みました。胃が痛み、何度も吐きました。溶けかけの錠薬を掴み、再び飲み込みました。何度も嘔吐と服用を繰り返し、睡魔がやって来るのを待ちました。
 何故か涙が止まりません。死ななければ、という使命感だけが脳裏をぐるぐる這い擦り回っています。

『死ななければ死ななければ死ななければ死ななければ死ななければ死ななければ死ななければ死なな──……』

 突如として重量を増した瞼を閉じると、目の淵に残っていた涙が頬を伝っていきました。

『遺書』
来世は“普通”でありますように

FIN.


BOOKMARKBACKNEXT


⇒作品艫激rュー
⇒モバスペ脾ook
TOP