要するに死亡率99%の短篇作品集です。



 病院を舞台にした怪談は数多い。
 霊安室から聴こえる泣き声とか、廊下を徘徊する影とか、廃病院からの電話とか。人命が取引されるが故に此処で生命を落とす人間は数知れない。けどよ、自分の死因に納得できねーからって、

「未練がましく屯ってんじゃねーよ」
「ひっ!?」

 恨めしいとほざきながら生者を嚇かすことあっても、嚇かされることはそう滅多にない。立場を変えたとき、大抵の幽霊は生者と大差ない反応を見せる。
 オイオイ、自分がされて嫌なことは他人にするなって教わらなかったか?

 びくっと肩を震わせた後、それは恐る恐る此方を向いた。死ぬ以上に何を恐れることがあるっつーんだよ。莫迦か。

「──って、うわ。腹掻っ捌かれたまま徘徊してたのかよ。キモチワリー」

 眼前に立つ少女は俺の言葉に不快感を露にしていたが、それはお互い様。むしろ、腹に穴が開いた状態で血と臓物を垂らしながら徘徊している女と遭遇してしまった俺の方が不快に決まっている。

「貴方、誰ですか?」
「死神」
「死神!?」

 金切り声で叫ぶもんだから、吃驚に震える鼓膜が耳鳴を呼ぶ。耳の奥でキーンと唸るそれを鎮めようと、指で栓をするも時既に遅し。アタマイタイ。

「ご、ごごごごめんなさい!」
「構わねーから黙ってくれ」
「その、びっくりして……! 死神さんにお会いしたことなかったので!」
「……黙れって」

 ああ、そういえば此処一帯の前任者は怠慢で有名だったな。だからこそ勤勉実直なこの俺が宛がわれたわけだが。
 着任早々に幽霊の巣窟とは、とんだ歓迎を受けたもんだ。

「まあいい。テメェ諸共連れていくか」
「ど、何処に、ですか?」
「あの世」
「え、嫌です!」

 即答。その頑なな拒否が癪に障った俺は、少女の首を引っ掛けるように鎌を滑らせた。とはいえ、死神の鎌は大きい。滑らせるにも振り下ろすにも、壁で仕切られた間合いだけでは収まらない。
 ちょうど、鎌を滑らせる為にすり抜けた霊安室から「ぎゃっ」と言う悲鳴が聴こえた。御愁傷様。

「つーか、テメェに決定権ねーから」
「……っ、お、おうちに帰りたいの!」
「はあ?」

 言うに事欠いてそれかよ。
 呆れて頚椎に当てた刃を引こうとした瞬間、少女は悲痛な声で「待って!」と叫んだ。相変わらずの顔面蒼白。だが、少し上気しているような気もする。

「な、何回も……、何回も帰ろうとしてて……、でも帰れなくて……! 病院の外に出ようとしても、そこの廊下を曲がる度に手術室に戻っちゃうんです」

 ──典型的な地縛霊。
 自分が死んだっつー事実を理解こそしていても納得はしていない。故に最期を迎えた場所に縛られ、何度も死を体験し、執着と怨念ばかりを積もらせていく。
 とはいえ、勝手にループするだけなら構わない。納得するまで何度でも死ねばいい。厄介なのは何奴も此奴も、いつしか生者を殺す悪霊に成り下がるっつーこと。

「パ、パパは私が死んだら自殺するかもって言ってたし、ママは身体が弱くて……。私、心配で心配で……! 一目でいいんです! 一目でいいから……」

 はらはらと涙を流しながら切に語る様は可哀想という他なかった。
 涙は同情を引く恰好の武器であり、厚情と有名でもあった前任者が怠慢の汚名を着てまで見逃したことは容易に想像がつく。

「……会わせてやるよ、」
「え! ほん──」

 目を輝かせた少女の首が宙を舞う。分離した少女が床に倒れる間もなく、それは蒸発するように、砂埃が舞うように消えていった。

「──あの世でな」

或る嘆願者と死神
幽霊の巣窟、死神の狩場。

FIN.


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