要するに死亡率99%の短篇作品集です。



 病院を舞台にした怪談は数多い。
 霊安室から聴こえる泣き声とか、廊下を徘徊する影とか、廃病院からの電話とか。人命が商品として扱われる現場だもの、此処で生命を落とす人は数知れない。そして、自分の死因に納得できない人の数もまた然り。

 その手の話は大嫌いなのだけど、だからといって入院拒否できるわけもなく。視覚を奪われた暗闇の中、私は見えるはずのない天井を見上げていた。
 この病室は所謂“いわくつき”のそれで、噂によると天井に人面のようなシミが浮かび上がるらしい。それもシミが色濃く鮮明になればなるほど患者の病状は悪化し、過去には亡くなった人もいたとかいないとか。
 ありきたりな噂だと思ってはいたけど、どうしても仰向けに寝る気にはなれなかった。のに。今夜は何故か天井が気になって気になって仕方がない。胸がざわざわして、眠ろうと躍起になればなるほど目が冴えていく。怖い。

「楽にしてやろーか」

 突然の出来事に、吃逆のような短い悲鳴しか出なかった。その間抜けな返答が可笑しかったのか、品性の欠片もない笑い声が暗闇に木霊する。

「おもしれー死願者だな」
「し……、志願者……?」
「其処は死にてーと思ってるヤツに宛がわれる、言わば死にたがりのベッドなんだよ」
「じょ、冗談じゃないわ! 私は死にたくなんか──」
「本当に?」

 背筋が凍るってこういうことなんだ。ファンタジックな出来事に混乱しながらも、明朗な印象を受けた声が一気に温度を失った瞬間、私は確かにそう思った。

「お前は常にこう思ってるはずだ、“自分の居場所は此処じゃない”って」

 図星だった。
 鼓動が跳ねると、幼い頃に亡くした姉の姿が脳裏を掠めた。非の打ち所が全くない姉と、容姿だけは瓜二つな出来損ないの妹(わたし)。姉が亡くなった途端、両親は私を厳しく躾るようになり、学校は姉への期待を私に押し付けるようになり、友達は姉と私を比べるようになった。だからこそ何処か遠く──誰も私たち姉妹のことを知らないところへいきたいと思ってはいた。でも、それは決して死を望んでいたわけじゃない。

「そうよ、死にたいなんてそんな……、そんなこと……。私……、思って……いた……の?」
「まあ、とやかく言われてもテメェが心筋きっ……、べん? さら? 心筋べん……さむ? かん? あー……、急性心不全でぽっくり逝くことは決定事項だからよ、」

 死んじゃおーぜ。
 あまりにも軽率で不謹慎な言葉が耳に届くや否や、心臓はぎくりと鳴いたきり動きを止めた。反対に動き出す雲、その隙間から覗く月。意識を失う数秒前、月に照らされた鎌が鈍く光った。

或る死願者と死神
「一名様、ごあんなーい」

FIN.


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