要するに死亡率99%の短篇作品集です。


 こんこと降る雪、脱色される世界。

 呼気も虚空もアルブに染まる折、世間はかの有名な奇術師の誕生日に向けて浮足立っていた。何をそう心待ちにする必要があるのか、僕にはさっぱりわからない。
 そもそも処女が妊娠・出産することはおろか、極東の間諜でもない人間が水上を歩くなんて不可能だ。そんな実在したかも疑わしい奇術師の誕生日を祝って何が楽しいのか。

 僕は思う、誕生日とは人間が老いていくカウントダウンそのものだと。そして、僕等が辿り着く終着点は世界で唯一の平等──死。

MOARTE

 人間は未知で未開で未踏であるものに恐怖する。
 ひとは必ず死ぬけれど、死ぬ瞬間の感覚とか、死後の……いわゆる天国と地獄とか、そういうことを誰も知らない。だから恐怖する。
 生きとし生ける人間は、誰ひとりとして“死”を知らない。なぜならば、誰ひとりとして“死”を経験できないからだ。“死”を知ったとき、ひとは死ぬ。当たり前だよね。そして、これもまた当たり前なのだけど、死者は生者と話せない。だから僕等は“死”を知らない。

 綺麗に包装された箱を持ってほくそ笑む人々とすれ違いながら、僕はふと路地裏に目を遣った。咳で揺れる視界。そこにある景色は古き悪しき頃のまま、身寄りのない子どもたちが湧いているそれで。
 かつての僕がそうであったように、彼等もまた、名前も顔も知らない親への怨念と、辛苦の運命を強いる神への呪詛と、幸福に満ち足りた世間への嫉妬をどうにもならない現実に吐き、いつも頭の中をぐるぐる回る“どうして”と“もし”でどうしようもない仮想を抱いているんだろう。だけど、思考で腹は膨れない。僕はそれをよく知っていて、そして、ひたすらに生きたかった。
 だからこそ幾つもの死骸をこさえ、幾つもの昼夜を越えてきた。生きるために自尊心を棄て、生きるために恥辱にまみれてきた。なのに。なのに、なのに、なのに!

 誉れた美貌も、健康な身体も今はなく。全身を疱疹が覆い、頭痛は止まず、歩くことすらままならない。そう、これは黒死病以来の脅威──猿から始まった不治の病。あろうことか、処世の恥辱に僕は殺されようとしているのだ。これ以上馬鹿らしい話があるだろうか?
 滑稽で憐憫で可笑しくて、無心を従えて傲岸に嗤おうとした──その矢先。急激な胃痛が僕を襲い、逆流してくるものを感じるや否や、鮮やかな血反吐が視界に入り込んできた。それの落下に合わせるように、僕の意思に反して身体が地べたを目指す。
 次いで頭上から聞こえたのは悲鳴と掛け声とどうでもいい憶測で。そうして、その衆人監視の下に、滑稽な僕は惨めな言葉を吐く。

「A……,A…juto……r…………」

 白銀をロシュに染めながら、僕は喪心を従えて哀願に涕いた。



FIN.


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