要するに死亡率99%の短篇作品集です。


 冷たく降り頻る雨、低く拡がる雲。

 地を這う湿気は、肺に滑り込むたび僕等を陰気にする。
 人々が行き交う街並みには百花繚乱が如き極彩色の開傘。生まれてこのかた傘という代物を手にしたことはないけれど、いくら馴れていても雨は冷たい。身震いしながら家路を急げど、そこには温もりも屋根もない。僕の家は、この先の路地裏にある軒下で。

 僕はそう、誕生を祝福されなかったチャウシェスクの落胤──孤児。

ORFAN

 此処は、ジプシーが蔓延る国の貧困街。郷に入っては郷に従えと言うけれど、まさしくその通り。余所の常識や良識なんて通じない酷いところ。
 娯楽と呼べるものは酒か煙草かセックスで。そのセックスを商売道具にしている女がいれば、欲望のまま見境なく種を撒き散らす男もいる。だからといって、貧困に喘ぐ彼等に育児なんて出来るわけもなく。そのうえ、宗教観念と労働力獲得のために中絶禁止ときたものだから、野良犬も孤児も増えるばかり。
 そうして、孤児は孤児の集団に身を置き、顔も名前も知らない親と同じ術で処世する。まあ、これは無事に成人できればの話で、孤児の多くは成人を迎える前に死を迎える。衣食住もままならず、“満足”とか“幸福”とかいう言葉を解することもないまま、僕等の多くは死んでいく。

 曇天、暗雲、雨露、空虚、うろ。

 少し黴の生えたプイネを抱えて路地裏に入ると、仲間がひとり、息を引き取る寸前だった。骨と皮だけの棒のような足を投げ出し、濁った眼球を宙に置く。渇いた唇から遺言を漏らすでもなく、ただ静かに、憔悴して、消耗して、彼はゆっくりと瞼を閉じた。
 しばらく哀悼に浸った後、僕等は彼の衣服を剥ぎ取った。以前から僕等より上等な衣服だと思っていたけれど、その通り生地は丈夫で破れも少ない。

 死体は病気や野良犬など、災厄と呼ばれる類の一切を呼ぶ。衣服を剥ぎ終えた僕等は、薄汚れた死体を近くの河川に棄てた。
 軽々と水に浮く死体。僕等はプイネを囓りながら、まるで羊水に帰ったようだねとその光景を笑った。それはきっと嘲笑で、僕等がまだ生きているということの再確認。死にたくない。生き抜いてやる。
 流れていく死体を見送りながら、僕は野心を従えて傲岸に嗤った。



FIN.


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