要するに死亡率99%の短篇作品集です。



 その日は、土砂降りの雨だった。

 強い雨音と並んで雷鳴も轟き、何処かに落雷する度に屋敷が揺れた。この界隈では一番の旧家といえば聞こえはいいが、つまりは旧態依然。広い庭に古い屋敷が構えているだけで、天災に対する備えは何もない。
 日焼けした畳に鎮座する布団は万年床。僕が生存を許された唯一の居場所だ。元来、心臓を患っていた僕は外出はもちろん、邸内ですら自由を許されず此処に閉じ込められて生きてきた。

 和紙を透かす稲光、激しく唸る桟。その直後、普段は静寂の邸内に慌忙が広がり、火事だという叫び声が続いた。
 古い木造家屋。火の回りは早く、消火より避難した方が賢明だろう。瞑目して耳を澄ませば、邸内の様子が手に取るようにわかった。父は使用人の牽制を振り払って金庫の中身を掻き出し、母は骨董品がどうのこうのと喚いている。

「奥様、若旦那様がまだ……」
「あんなもの捨て置きなさい! それよりこの壷持って!」

 ──我利我利亡者め。
 痛む心臓を押さえて上体を起こすと、僕の部屋の脇を母がちょうど過ぎていくところだった。足を止める素振りはなく、品の無い足音はあっという間に遠退いて行った。

「兄さん」

 あどけない声に気付いて見れば、障子の隙間から幼い弟が覗いている。

「父様も母様もみんな行ってしまったよ。兄さんは行かないの?」
「後から行くよ。お前は早くお行き」
「はあい! じゃあ後でね!」

 軽い足音が聴こえなくなったところで、僕は安堵して再び横になった。煙火はすぐそばまでやって来ていて、熱を帯びた空気は呼吸の度に咳を誘う。
 有機物の不完全燃焼によって生成される気体の名前は一酸化炭素。微量でも中毒を引き起こすこれで、炎に巻かれる苦しみを紛らわせそうだ。
 僕は深呼吸を幾度か繰り返し、頭痛を連れて微睡みに沈んで逝った。


万年の床 永年の寝

FIN.


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