要するに死亡率99%の短篇作品集です。



 牛の首という話がある。
 その全容を知った者は、あまりの恐怖に死んでしまうというコワ〜イ話でね。まあ、全容を知る僕は御覧の通り生きているんだけど、この話には盲点というか、全容を知っても死なない方法がひとつあって……うん、その通り。恐怖しないことなんだ。

 え、試しに聞かせろって?
 そりゃあ君が言うなら話さないこともないけど、肝試しにこの話は奨めないな。だって、恐怖したら死んじゃうよ? それでも良いのかい?

 そう。じゃあ聞かせてあげる。

 昔々、今では飽食のこの国にも飢饉があった。河川は渇き、田畑は枯れ、家族や友人は次々と飢えに苦しみもがいて死んでいく。
 明日は我が身、なんて悠長に思うも食べられる物はなく、耳に届くのは空腹に泣く赤子と満腹に鳴く鴉の声ばかり。空腹を訴え疲れた腹の音(ね)は、黙りこくって永い眠りを今か今かと待っていた。

 そんな時だろうか、誰かがソレを持って来たのは。

 酷い空腹の所為か、久方に食べる肉の所為か、ソレはこの上なく旨かった。
 病み付きになるとはまさにあのことを言うのだろう。ソレを食べた者はみな夢中になって肉を貪り、無心になって骨までしゃぶった。

 これほど旨い牛肉が有ったとは……いや、そもそも牛肉など有ったのか?

 飢饉とは食料が無いということ。
 食肉があればもっと早くに食べているし、人間が餓死する状況で牛が生き延びられるわけもない。

 そういえば、あの子の姿が見当たらないらしい。あの子の両親が、我が子の分にと肉を携えてウロウロしていた。

 ──ああ、なるほど。

 大抵の人間は自分がしてしまった事の重大さを嘆き、慄き、そして恐怖した。咽喉の奥に指を突っ込みソレを吐き出そうとも、出て来るのは肉塊のみ。まして死人(しびと)が蘇るわけもない。
 一方、恐怖しない人間は舌なめずりして辺りを見回した。己がどれほど愚かだったか、今になって気付く。飢饉、飢饉と何を嘆いていたのだろう。

 ──食料なら、目の前に大勢いる。

 牛の首とはつまり、牛の皮を着せた人間を人間が食べたという話で……おや、どうしたんだい? 顔色が真っ青だよ。

 あーあ、忠告したのに──恐怖したら死んじゃうよって。
 そうやって不様に腰を抜かしさえしなければ、僕の餌食になることもなかったのにね。


あ、噛んじゃった。

FIN.


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