徒然なるままに綴った短篇作品集なのです。




「明日も雨降るらしいから傘忘れんなよ」

 隣り合う玄関。不意を突く言葉に貴方を見れば、頬を染めてそっぽを向いている。

「俺、明日から彼女と帰るから」
「え……」

 足元がぐらつく。がらがらと音を立ててアスファルトが奈落へ落ちていくように、急に地面が不安定になる。これは、貴方の存在が私のアイデンティティを保っていた何よりの証拠で。
 今にも外界へ行かんとする涙を堪え、私はいつも通りの愚鈍で、空元気な姿を晒した。

「彼女できたんだあ、やったじゃん!」
「は、俺はお前みたいなブスと違ってモテんだよ」
「はいはい、左様でございますか」

 照れ隠しをするとき、貴方は決まって悪態を吐く。その後は必ず、しまったと言わんばかりの顔でこちらを見て、ばつが悪そうに頭を掻くんだ。
 誰よりも貴方を知っているのに、どうして私じゃない子が貴方の隣なの?

「明日からは傘……忘れないように気をつけるね!」
「ま、忘れたら俺の置き傘使えよ。下駄箱んとこにあるから」

 訊くまでもない野暮な質問。
 誰よりも貴方を知っているからこそ、理由はわかっている。貴方にとっての私は結局、ただの幼馴染みでしかないということ。

「じゃあ、またね!」
「おう、じゃあな」

 ──じゃあ、またね!
 ──おう、また明日。

 昨日までの挨拶が、明日会う約束がそこにはなくて。それが当然のように、私たちは寂しい言葉を交わして別れた。

霖雨
その日 私は空と泣いた

FIN.



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